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https://mainichi.jp/articles/20210116/ddn/041/040/020000c

命救う、今こそ　犠牲乳児抱いた中２の３０分、看護師原点

神戸市立医療センター中央市民病院（同市中央区）の看護師、尾川華子さん（４０）＝同市兵庫区＝は、阪神大震災で亡くなった赤ちゃんのことを今も思い出す。１９９５年１月１７日、倒壊家屋から救い出され、居合わせた自分が抱いた名前も知らない子だが、その目は最後まで開かなかった。看護の道へ進んだのは、中学２年だったあの日の経験からだ。「助けられたはずの命を救いたい」。その思いを胸に、生死を分かつ救急や災害医療の現場に立ち続ける。

　「この赤ちゃんを温めてあげて」。震災直後の明け方でまだ暗い中、神戸市東灘区の自宅マンションの外に出た時だった。近くにいた大人から突然、毛布にくるまれた生後間もない赤ちゃんを手渡された。崩れ落ちた隣の文化住宅から救助されたばかりだった。
２０１５年に訪れたアフリカ・タンザニアで、サバンナに住むマサイ族の乳幼児に予防接種や体重測定を行った尾川華子さん＝タンザニアで２０１５年（本人提供）
　傷もなくきれいな顔。すでに体は冷たかった。ぎゅっと胸に抱き寄せ、頭や背中を必死でさすった。だが、ぬくもりは戻らず、泣き声も上げない。３０分ほどして近くの大人に引き渡した。後に、赤ちゃんとその母親は亡くなったと聞いた。母親は出産で里帰りしていたという。「何もできなかった」と無力感が残った。

　「今度は手を差し伸べられる人でありたい」。高校卒業後に看護の専門学校に進み、２００３年に看護師になった。

　駆け出しの頃、兵庫県西宮市の病院の集中治療室（ＩＣＵ）で食道がんの高齢男性を担当。手術後に別の病棟に移っていた男性は退院の際「ありがとう。これからも頑張って」と声をかけてくれた。「まだ怒られてばかりの時期だったのに」。医療が誰かを救えることを実感したという。

　看護師になって１８年。「寄り添う看護」を胸に刻んできた。今の職場は救命救急センター。風邪の子どもから新型コロナウイルスの重症患者まで、１日１００人超の患者が訪れる。人の生死を分かつ場面に接することもある。「看護とは、少しでも患者さんや家族の苦しみ、悲しみに寄り添い、安心してもらうこと」と語る。

　原点となった災害現場の医療にも携わってきた。０５年４月のＪＲ福知山線脱線事故では搬送された被害者の救急治療を経験。兵庫県災害医療センター（神戸市中央区）に移った後、１３年のフィリピン南部地震で国際緊急援助隊医療チームの一員として現地に派遣された。救えない命に接する機会も多い。１５年に行ったタンザニアでは風邪をこじらせた赤ちゃんが目の前であえぎながら亡くなり、涙する母親の背中をさすり続けた。

　「必要な人や物が限られ、情報もない中で最良の医療を提供し、次の治療につなげる。救急と災害医療は共通する」と言う。国内外の被災地に何度も出向いた経験から、災害研修で講師を務めることもある。

　被災地に行くたび、２６年前に抱いた赤ちゃんを思い出す。「あの子にも将来があり、やりたいことがあったはず。一人でも多くの命を救える看護師になりたいと今も思う」。１７日は勤務日。心の中で手を合わせ、目の前の患者に向き合う。

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個人投資家は買うの無理