老舗町中華店主(77)「筋力が落ちた。ここが潮時」常連(77)「ラーメンはここでしか食べん。あしたからどうすればいいんや」

町中華「味来軒」半世紀に幕　金沢・小立野　店主・伊並さん「ここが潮時」筋力落ち決断（北國新聞社）
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●最終日に常連、大挙

レトロな雰囲気と懐かしい味で親しまれた中華料理店「味来軒（みらいけん）」（金沢市小立野3丁目）が11月30日、50年の歴史にのれんを下ろした。最終日は閉店を惜しんだ常連らが営業時間前から並び、金大生でにぎわったころの活気がよみがえった。15歳で料理の世界に飛び込み、60年余り中華鍋を振るった店主の伊並一夫さん（77）は「続けたかったけど、筋力が落ちた。ここが潮時」と、ほっとした表情を見せた。

【写真】入店待ちをする常連客=11月30日

味来軒は1975（昭和50）年に開店し、こだわりの味とボリュームですぐに人気店になった。当時歩いて10分足らずの場所にあった金大工学部の学生を中心に、営業が始まる午前11時から深夜2時までひっきりなしに客が訪れた。

看板メニューは鶏ガラと豚骨を毎日6時間煮込んでだしを取ったラーメン。透き通ったスープは「胃もたれがしにくい」と評判で、500円と安価なこともあり年齢問わず人気だった。野菜たっぷりのマーボー丼や、昔ながらのオムライスなど幅広いメニューで人気を集めた。

07年に金大工学部が角間キャンパスに移転して以降は、地域の「町中華」として地元客らが利用した。今年1月には、名物だったボロボロののれんを数十年ぶりに新調していたが、長年の立ち仕事による腰痛や筋力低下などもあり、市の営業許可が切れる11月末での閉店を決めた。

15席ほどの店内では常連客が思い出話に花を咲かせた。家族4人で訪れた小立野3丁目の田中滋人さん（56）は「高校時代から通い、今では家族の味になった。なくなるのはさみしい」とぽつり。40年余り前から月2、3回通う末町の浦川光久さん（77）は「ラーメンはここでしか食べん。あしたからどうすればいいんや」と悲しんだ。

学生だった客が70歳近くなって再び訪れたこともあり、今も食堂代わりに毎日足を運ぶ常連もいる。伊並さんは「客に恵まれたし、地域に育てられた」と感慨をにじませ、「頑張ろうと思っていたが、家族から『元気なうちにやめた方がいい』と言われた。しばらくゆっくり休む」と痛む腰や腕をさすった。