金麦、ビールになる

サントリーは「金麦」をビールに“格上げ”する
主力ブランドのカテゴリーを変える異例の戦略
よく知られたブランドを生かし、売り伸ばし図る

2026年10月の酒税改正まで1年を切り、ビール類の市場が大きく動き始めた。メーカー各社は熾烈（しれつ）な競争市場で勝ち抜こうと、新商品の投入やリニューアルなどに取り組んでいる。

「こんな手を打ってくるとは――」。業界関係者から驚きの声が上がった。第三のビールであるサントリー「金麦」ブランドのリニューアル発表についてだ。

金麦は26年10月以降、原料で使っている麦芽の比率を引き上げ、ビールに“格上げ”する。サントリーが07年に発売し、同社のビール類販売の約5割を占める稼ぎ柱の金麦。その中身を刷新して、カテゴリーまで変えてしまおうという戦略だ。

ポイントは、価格を第三のビールと同じ「エコノミー価格帯」のままとする点だ。もともと第三のビールは麦芽の比率を下げることで酒税の税率を下げ、ビール風味のアルコール飲料を手ごろな価格で提供できるよう開発されたものだ。ところがサントリーは、中身をビールに変更するものの、価格は第三のビールと同レベルに抑える。

トレンドは「ビール強化」、サントリーは逆張り

競合メーカーは、来秋の酒税改正に向け、ビールを強化するところが多い。酒税改正でビールは減税となり、発泡酒と第三のビールは増税となるからだ。店頭価格の差が縮まることで、これまで発泡酒や第三のビールを飲んでいた消費者が「これくらいの価格差なら」とビールに流れることが予想される。20年と23年に実施された酒税改正のときも、ビールの販売量が増え、第三のビールは減った。

キリンビールは10月7日、ビールの新ブランド「キリングッドエール」を発売した。コンビニエンスストアでの想定販売価格は、同社の主力商品である「一番搾り」や「晴れ風」より17円高い。「せっかく飲むなら、よりおいしいものを」という需要を捉える狙いだ。同社の堀口英樹社長は「2つのブランドに次ぐ第3の定番商品にする」と力を込める。

競合がビールを強化する中、サントリーは24年末に開いた戦略説明会時から「ビールとエコノミーの両輪」を打ち出している。

金麦は25年1～8月、サントリーのビール類の販売量の51.5％を占めた。第三のビール市場が落ち込む中でもサントリーは金麦のテコ入れを怠らなかった。24年には中身とロゴをリニューアル。その他にも季節限定品の発売や広告出稿で販売促進を図っている。その効果もあって、25年1～8月、市場全体で発泡酒と第三のビールを合わせた販売量は前年同期比8％減だったのに対し、金麦は4％減にとどまった。多田常務執行役員は「大健闘」と自画自賛する。