プロ野球・契約更改での「名言」

1991年西崎幸広投手（日本ハム）は、当時流行りだったセカンドバックを記者室の椅子の横に叩きつけた。

「やってられるか。5年連続2ケタ勝利で、（6000万円から）1200万下がった。今年は一歩も引かない！」

10勝6敗、防御率3.16という成績だが、投球回は192回から116回に激減。「5年連続2ケタ勝利の功績でアップ」と見るか、「それまでの15勝前後をベースにダウン」と見るか、双方の見解は乖離していた（結局は推定7200万円に）。それにしても、勝利のマウンドで笑顔を振りまくさわやかな姿と、怒りをあらわにしたときのギャップに周囲は驚いた。

同じ1991年、同じ日。1歳下の武田一浩投手（日本ハム）。江夏豊が1981年に守護神として日本ハムをリーグ制覇に導いたが、クローザーはまだまだ評価が低かった。

90年10勝13セーブだったが、「来年もやったら上げてやる」と球団代表に言われ、91年は4勝18セーブで最優秀救援のタイトルを獲得。5000万円が当時一流の証だったが、提示は3100万円→4200万円。

「話になりません。出直してきます」

「ちょっと待て、4700万にするから」

保留したらたった2分で500万円上がった。ならば本来、4700万円スタートではないのか。

「もう一生リリーフやらない！　タイトルを獲っても（評価が）変わらない。曲がったことが大嫌いだから」

交渉とはいえ、「正当な評価」ではなく、「駆け引き」を嫌う選手もいるのだ。

1992年、高木豊（横浜）は3年連続の打率3割をマークし、推定年俸9330万円から球団初の1億円プレーヤーを狙った。だが、球団提示は200万円ダウン。打率は.333→.300、打点は62→39と数字自体は下がっていた。

「悪くても現状維持。10パーセントアップは当然。調停はいい気持ちがしないが、第三者から見た自分の年俸はいくらなのかと考えた」

年俸調停は中間の数字は取らない。そうすると、選手は少しでも額を上げようとして、みんな調停を申請してしまうからだ。どちらかに寄せるのが通常だ。調停委員は「年俸9840万円が妥当」という高木寄りの裁定を下した。

翌93年、高木は打率を.268に下げたものの、3年連続全試合出場を果たした。しかし、94年横浜にFA移籍した駒田徳広（巨人）への資金調達なのか、まさかの戦力外通告で日本ハムに移籍することになった。のちに高木自身は「年俸調停を行った（もめた）ことが解雇の要因になったのではないか」と自己分析している。

ダイエーから日本ハムに移籍した下柳剛を全国区にしたのは1997年、当時4年連続首位打者のイチロー（オリックス）の連続無三振を216で止めてからだ。リリーフだけで「規定投球回数」に到達し、147回を投げ136奪三振。のちの技巧派は、この29歳時点では本格派だった。

65試合登板、チームトップの9勝（4敗）、防御率3.49。初回、二度目の更改では合意せず、12月24日の契約更改で年俸5600万円から倍増。一流の証1億円を勝ち取った（推定1億500万円）。

「サンタさんはおるんやねえ。いい子にしておいてよかったよ」

2000年から3年連続して「39本塁打、110打点」以上と成績を残した中村紀洋（近鉄）。01年は近鉄「いてまえ打線」でタフィ・ローズとともに優勝の原動力となった二枚看板の大砲であり、「メジャー移籍はあまり頭にない」と話していたこともあったが、02年オフは「中村紀洋というブランドを考えて近鉄で終わっていいのか」という、自己を高く評価する言葉を発する。

一時はメッツへの移籍が決まりかけたが、結局は「5年（推定）30億円プラス出来高」とも言われる大型契約を結び、残留を決めた。しかし絶頂期とはいえ、ともすれば不遜、傲慢と取られる言葉でもあった。結局、近鉄は04年を最後にオリックスに吸収合併され、球界再編の発端となるのだから、個人にこんな大金を支払っている場合ではなかった。

2005年、全146試合、全試合で打順四番を任され、打率.272、19本、88打点をマーク。球団からの提示は「本塁打が少ない」と現状維持の推定1億3000万円。「もらった祝儀袋の中身が図書券だった感じ」とのコメントを残した。その心は「結構上げてもらえると思ったのに、フタをあければ期待外れでビミョー」といったところか。

前年度と比較し、打率は実に5分も落ちているが、打点は31も増えている。しかもチーム順位は最下位から3位浮上（牛島和彦監督）。どちらかと言えば激情型の佐伯だけに、この評価でよくぞ我慢したなというところではないだろうか。

G.G.佐藤外野手（西武）は、プロ4年目の2007年に、自身初の規定打席に到達。打率.280、25本塁打、69打点の成績を収める。しかし、推定年俸850万円から大幅増の希望年俸3700万円のところ、球団から提示された年俸は3500万円。

G.G.佐藤は「交渉している気がしない。ブチキレていいですか」と怒りをあらわにした。ヒーローインタビューでの「キモティーッ!」の絶叫パフォーマンスで人気者だったが、六度にわたる交渉で200万円の開きは縮まらず、“ゼニゲバ”とも酷評された。気持ちよくなるために（？）調停を選択。最終的に、希望の推定3700万円で決着。“世紀の落球”をしたのは、翌2008年の北京五輪の準決勝・韓国戦、3位決定戦のアメリカ戦だった。