かつみ・さゆりの夫婦愛が素晴らしくて泣けると話題

　つきあいだしたのは、それからしばらく経ってから。番組の打ち上げで一緒になり、車で送ってもらったという。

「車の中でのおしゃべりが楽しかったんです。借金で人生のどん底にいるはずなのに、そんなこと、みじんも感じさせないんですよ。“おれな、こんなこともあんなこともしたいねん”と、夢を語りはったんです」

　前ばかり向いているこの人にならついていっても大丈夫だと確信したという。

「“人にお金を借りることはせえへんし、自己破産もせえへん。おれの力で返しきる”と言いはったことも、男らしくて素敵！と思いました」
泥舟でも一緒に乗ると覚悟を決める

　彼とつきあうと決めた時点で、腹をくくった。督促状で郵便受けがいっぱいになったり、電気を止められても、けんかにならなかったという。

「かつみさんは一生懸命に働いてはったし、泣きごとなんかも言いはりません。加えて、私に怒るという感情がないんです。幼い頃から母に“人は鏡よ”って言われて育ったからやと思います。相手が意地悪してくるなら、それは自分も相手に同じことをしているからと考えなさいと。そんな思考だと怒りってなくなるんですよね」

　借金を返済しようと、かつみはその後も一口馬主やキューバの先物取引、さまざまな事業に手を出しては借金を増やした。事業内容を聞いて、反対はしなかったのか。

「オオクワガタの養殖失敗で1000万円の借金をつくったときも、かつみさんは、“さゆりちゃん、すごい話を聞いてきたよ。ドリーム計画やで”とうれしそうに話すんです。そんな話を聞いていたら、“それってすごいやん”と本当に思ってしまって、つい背中を押しちゃうんです。それでもね、私たちに悲壮感ってないんですよ。借金という敵に、いろんな武器で戦い、夫婦が並んで1つずつ倒していく感覚なんです」

　そんな彼女でも、一度だけ心が折れそうになったときがある。結婚して3年経った頃、銀行から一通の封書が届いた。それは、亡くなったかつみの父親が10億円もの借金を彼に残したという内容だった。

「かつみさんは愛人の子供として生まれました。お父さんとは疎遠で、5回くらいしか会ったことがないそうです」

　そんななか、追い打ちをかけるように、かつみの漫才の相方が辞めてしまった。

「借金は増えるわ、仕事ができなくなるわで、かつみさんもこのときばかりは弱気にならはりました。“親父の借金までさゆりに背負わせることはできへんから別れてくれ”と離婚を切り出されたんです」

　このときの返しが絶妙だ。

「私はあなたの借金の保証人です。裁判所的には夫婦いうより、甲と乙の関係なんですよ。離婚をしても甲乙の関係は解消できません」

　それを聞いたかつみは苦笑いし、離婚の話はなくなった。幸い父の残した借金も、相続しなくてもよくなった。そしてこの後、さゆりはかつみと漫才コンビを組む。このときの彼の言葉が忘れられないという。

「もしガムが1枚しかなかったら、ちぎって半分こや。でも、必ずどっちかが大きくなる。その大きい方を相手に渡すという気持ちでやっていこう。漫才がウケたときは、相方がいるからこそと思いやることが大事なんや。万が一、漫才がうまくいかなくなって仲がギクシャクしたら、すぐに解散する。どんなことがあっても漫才師ではなく夫婦を選ぶから」

　複雑な環境で育ち、「家族なんか信用できへん」が口癖だったかつみ。結婚後も彼との間に見えない壁が立ちはだかっているように感じていたが、「夫婦を選ぶ」という言葉を聞いて、壁が崩れ落ちたように感じたという。

　彼女にとっては、借金よりも夫の閉ざされた心の壁の方が大きな問題だったのだ。その心が開いたいま、この夫婦の間にあるのは絆だけなのだろう。